施設のリニューアルに合わせて施設案内図の作り直しを任されたものの、各部署から「うちの窓口をもっと大きく」「この部屋名も必ず入れてほしい」と要望が次々に届き、手元のメモだけが長くなっていく状況に置かれていないでしょうか。
全部の声に応えたいのに、全部載せたら誰にも読めない図になりそうで、手が止まってしまいますよね。
病院や大学、商業施設、工場などの大型施設では、施設案内図に載せたい情報が多いぶん、担当者一人が抱える判断も重くなりがちです。
この記事では、施設案内図作成でよくある2つの誤解をほどきながら、プロにどう頼めば分かりやすい施設案内図になるのかを考えていきます。
施設案内図が分かりにくくなるのは、担当者の力不足ではない
大型施設の施設案内図が分かりにくくなる原因は、担当者のセンスではなく、施設の内側の言葉で作られてしまう構造にあります。
各部署の要望を集めて作ると、案内図は自然と組織図に近い形になり、部署名や正式な部屋名が並ぶことになるからです。
要望を出す側に悪気はなく、担当者もそれを無視できないのですから、こうなるのは無理もありません。
たとえば病院では、案内図に「中央検査部」「放射線科」と書かれていても、来院された方が探しているのは「採血」や「レントゲン」だったりします。
大学なら、案内図に並ぶ学部棟の名前より、「学生課の窓口」や「入試の説明会場」を探している来訪者のほうが多いかもしれません。
正式名称だけで作った案内図は、施設の人には正しく見えても、初めての人には暗号のように映ることがあります。
判断の軸になるのは、案内図に書かれている言葉が、利用者が口にする言葉と一致しているかどうかです。
受付や総合案内で実際によく聞かれる質問を思い出したとき、その言葉は今の案内図のどこかに載っているでしょうか。
誤解1:情報を全部載せれば、親切な施設案内図になる
情報を漏れなく載せることが親切だと考えがちですが、大型施設ではその逆になることが多いものです。
すべての部屋名を同じ大きさで載せると文字は小さくなり、利用者は自分の目的地を探す前に、情報の多さに圧倒されてしまいます。
50を超える部屋名を1枚に詰め込んで掲示したものの、誰も立ち止まって見なくなった、という話も珍しくありません。
ひとつの目安として、1枚の施設案内図で目立たせる目的地は10か所前後に絞り、それ以外は階ごとの案内図や窓口での案内に任せる、という分け方があります。
全体図では建物の位置関係と主要な目的地だけを示し、細かな部屋は各階の案内図で示すという二段構えにすると、それぞれの図が読みやすくなります。
全部を載せなくていいと分かると、少し肩の荷が下りるかもしれません。
もう一つ見落とされやすいのが、掲示する場所ごとの図の向きです。
壁に貼る施設案内図は、見る人が向いている方向が図の上になるように描かないと、右と左が逆に感じられて迷いの原因になります。
同じデータを全フロアに同じ向きで貼っていないか、確かめておきたいところです。
今の施設案内図の前に立ったとき、図の上は、あなたの正面を向いているでしょうか。
誤解2:プロに頼めば、中身まで任せられる
プロに頼めば何を載せるかまで決めてもらえると期待したくなりますが、見やすく形にすることと、何を優先するかを決めることは別の仕事です。
施設の利用者がどこを目指すことが多いか、どの部署の表記をどう変えるかといった判断は、施設の内側にいる人にしかできません。
ここを決めないまま依頼すると、校正の段階で各部署から修正が相次ぎ、同じ図を何度も作り直すことになりがちです。
頼むことは丸投げではなく、施設側が決めることと、プロが形にすることを分ける作業です。
依頼前に、要望をまとめる窓口を一人に決め、部署ごとの要望と、総合案内でよく聞かれる質問を一つの表に並べておくと、プロとの打ち合わせが具体的になります。
それでも、どの部署の要望を優先するかは、社内の力関係もからんで決めにくいものですよね。
そんなとき、ココナラなどで施設案内図作成を受けているデザイナーに、図面と要望の一覧を見せて意見を聞く方法もあります。
施設の内部事情に縛られない第三者から、利用者の動線を基準にした客観的な意見が出てくると、社内で優先順位を説明するときの根拠にもなります。
大規模なサイン計画まで含むなら専門の制作会社が向いていますが、方針の相談やラフの作成、一部のフロアだけの施設案内図であれば、個人のデザイナーに頼んで小さく始めることもできます。
自分一人の判断で決めなくていいと思えるだけでも、担当者の負担はずいぶん軽くなるのではないでしょうか。
分かりやすい施設案内図に仕上げてくれる相手の見極め方
頼む相手を見極めるときは、制作例の見た目の美しさより、依頼前のやり取りで何を聞いてくるかに注目するほうが確かです。
建物の図面を渡したとき、「どの入口から入る人が多いですか」「総合案内ではどんな質問が多いですか」と利用者の動きを聞いてくる相手は、施設案内図を動線の道具として考えています。
反対に、色やテイストの確認だけで話が進む場合は、見た目は整っても迷いは減らない図になる心配があります。
遠方のデザイナーに頼む場合でも、建物の図面に加えて、主要な入口や分かれ道の写真を渡せば、現地を見ていなくても実態に近い図を描いてもらいやすくなります。
図面が古く、改修で間取りが変わっている箇所がある場合は、その点をはっきり伝えておかないと、完成した案内図と現地が合わないという失敗につながります。
これまでのやり取りを振り返って、相手はあなたの施設の利用者について、何か質問してくれていたでしょうか。
今すぐ依頼先を決めなくてもかまわない
ここまで読んで、施設内の合意も取れていないのに依頼先を探すのはまだ早い、と感じた方もいるかもしれません。
その感覚は自然なもので、焦って依頼先を決めるより、今は決めずにおくほうがよい時期もあります。
総合案内で聞かれる質問をしばらく書き留めておくだけでも、施設案内図に何を載せるべきかは少しずつ見えてきます。
依頼先を決めていない時間は、何もしていない時間ではありません。
利用者の言葉を集め、部署の要望と並べ、誰に何を頼むかを考えるための準備期間として、そのまま過ごしてもいいのではないでしょうか。
分かりやすい施設案内図は、利用者の言葉を集めることから始まります。依頼先がまだ決まっていなくても、その準備に向き合っている今の時間には、ちゃんと意味があります。
プロに頼むことを丸投げのように感じて後ろめたさが残る方には、こちらの記事が考えるきっかけになるかもしれません。