新しく越してきたご家族から、配られた地図ではゴミの集積所の場所が分からなかったと言われて、思わず手元の紙を見直したことはありませんか。
何度もコピーを重ねて線がにじみ、角のお宅の名前は数年前のまま。
作り直したほうがいいと分かってはいても、住宅地図を誰にどう頼めばいいのかとなると、急に足が止まってしまいますよね。
この記事では、ある町内会役員の方の例をたどりながら、住宅地図作成の依頼先ごとの違いと、選ぶときに見ておきたいポイントをお伝えします。
前任者の地図を作り直そうとした、ある町内会役員の話
60代のある男性は、町内会の班長を引き受けた年に、回覧用の住宅地図を新しくしようと決めたそうです。
最初に考えたのは、市販の住宅地図の該当ページをコピーして、必要なところに色を塗るという方法でした。
ところが調べてみると、市販の住宅地図は著作物で、複製には許諾の手続きが必要だと分かり、そこで手が止まってしまったといいます。
次に表計算ソフトで四角を並べて自作してみたものの、道路の曲がり具合や公園の位置がうまく表せず、家の並びも実際と微妙にずれてしまいました。
週末を2回つぶして仕上げた地図を役員会で見せると、「これ、うちはどこ?」と真っ先に聞かれたそうです。
作った本人には分かる地図でも、初めて見る人にとっての分かりやすさは別物なのだと、そのとき気づいたと話していました。
手間をかけたぶん、他人の一言で崩れるのはつらいものです。
ただ、この方の経験は、自作が悪いという話ではありません。
地図の分かりやすさには、描く技術とは別に「何を載せて何を省くか」という判断が大きく関わっている、という気づきにつながる話ではないでしょうか。
「分かりやすい住宅地図」は、情報を減らすことで生まれる
住宅地図作成で多くの方が最初にやりがちなのが、すべての家、すべての路地を正確に描き込もうとすることです。
分かりやすさを決めるのは正確さの量ではなく、見る人が迷わないための目印の選び方です。
回覧や防災用の地図なら、見る人が知りたいのは自分の家と集積所、避難場所の位置関係くらいで、隣の家の形までは求めていないことがほとんどです。
具体的には、交差点の角にある郵便局やコンビニ、目立つ公園や神社など、誰もが知っている建物を目印として大きめに描き、細い私道や空き地の細部は思い切って省きます。
文字の大きさにも配慮が必要で、高齢の方が多い地域では、少し離して見ても読める大きさにしておかないと、せっかくの地図が使われなくなってしまいます。
色も多ければよいわけではなく、班ごとの色分けと道路、目印くらいに絞ったほうが、白黒コピーでも見分けがつきやすくなります。
一方で、何を省くかは地域の事情を知る人にしか決められない部分もあります。
どの角を目印にすれば住民に伝わるのか、あなたの頭の中にはもう答えがいくつか浮かんでいるかもしれません。
依頼先ごとの違いを比べてみる
住宅地図作成の依頼先は、大きく分けて地域の印刷会社、地図を専門に扱う会社、個人のデザイナーやイラストレーターの3つが考えられます。
それぞれ得意なことと費用感が違うため、どれが正解というより、地図の用途と予算に合うかどうかで選ぶことになります。
地域の印刷会社は、印刷と配布までまとめて頼めるのが強みで、町内の全戸に配るなど部数が多い場合は話が早く進みます。
ただし地図のデザイン自体は外注していることもあり、細かな修正のやり取りに時間がかかる場合があります。
地図を専門に扱う会社は、正確な道路情報や測量データをもとに作れるため、不動産の販売資料や広域の案内図など正確さが求められる用途に向いていますが、そのぶん費用は高めになりやすい傾向があります。
個人のデザイナーやイラストレーターの場合、簡単な案内図なら数千円から、町内全体を描き込むものやイラスト調に仕上げるものでは数万円になることもあるようです。
担当者と直接やり取りできるので目印の選び方や色の相談がしやすく、町内会や小さなお店の地図とは相性のよい依頼先といえます。
地図を描き慣れた人は、線の太さひとつで道の広さの違いを伝え、目印の置き方ひとつで見る人の視線の流れを作ることができます。
自作で苦労した経験がある方ほど、そうした人が仕上げた一枚を見て、情報の選び方や文字の配置の違いに驚くことが多いものです。
印刷会社:印刷や配布までまとめて任せたいとき
地図専門の会社:正確さが最優先の用途のとき
個人のクリエイター:費用を抑えつつ、相談しながら作りたいとき
どこに頼むかで迷うのは、それだけ地図の使い道を真剣に考えているからでもありますよね。
元にする地図と、載せる名前には注意がいる
依頼先を選ぶ前に必ず押さえておきたいのが、元にする地図の扱いです。
市販の住宅地図は著作物のため、ページをコピーしたり、上からなぞって描き直したりして配布すると、著作権の侵害にあたるおそれがあります。
市販の住宅地図を扱う会社の中には複製の許諾制度を設けているところもあるので、元にしたい場合は事前に問い合わせるのが確実です。
ウェブ地図の画面をそのまま印刷して使う場合も、各サービスの利用規約で扱いが決められています。
国土地理院の地図は出典を示せば使える場面が多いものの、使い方によっては申請が必要になることもあります。
依頼する相手がどの地図を下敷きにするつもりなのかを最初に確認しておくと、あとで配布を止めるような事態を避けられます。
もうひとつ見落とされやすいのが、住民の名前を載せるかどうかです。
2017年に施行された改正個人情報保護法によって、町内会や自治会も、規模にかかわらず個人情報を扱う事業者として法律の対象になりました。
昔からの慣習で氏名入りの地図を配ってきた地域でも、載せるなら本人の同意を取る、あるいは氏名の代わりに班番号や色分けで示す、といった形に切り替えるところが増えているようです。
外部に作成を頼むときも、渡す情報は地図に必要な範囲だけにとどめておくと安心です。
地図ひとつでここまで気を配るのかと、少し面倒に感じるかもしれません。
それでも、この2点を最初に決めておくだけで、依頼先との話はずっと進めやすくなるはずです。
依頼先を選ぶときの3つの物差し
ここまでの話をふまえると、依頼先を選ぶ物差しは3つに絞れます。
1つ目は用途に合った正確さで作れるかどうかで、回覧用ならイラスト的な分かりやすさ、不動産資料なら測量に近い正確さというように、求める水準をはっきりさせることです。
2つ目は元にする地図の出どころを説明できる相手かどうかで、著作権への意識が低い依頼先は、どれだけ安くても避けたほうが無難です。
3つ目は、目印の選び方や文字の大きさについて、こちらの事情を聞いたうえで提案してくれるかどうかです。
3つ目の物差しを確かめるには、実際に相談してみるのが一番の近道です。
たとえば、ココナラのようなスキルシェアサービスで地図のイラストやデザインを出品している人に、手描きのラフや町内の写真を見せて、初めてこの町を歩く人の目線で分かりにくいところがないかを聞いてみる方法があります。
地域に長く住んでいる人ほど当たり前だと思って省いてしまう目印を、外の人の視点で指摘してもらえるのは、第三者に頼むからこそ得られる価値ではないでしょうか。
小さな町内の地図でも、相談してかまわない立派な依頼です。
あなたの町の地図で、外の人にこそ見てほしい場所はどこでしょうか。
分かりやすい住宅地図の依頼先は、用途に合った正確さ、元にする地図の出どころ、見る人の目線に立った提案の3つで見極めると、大きく外すことはありません。迷ったときは、この3つの物差しを候補の依頼先に向けて、ひとつずつ言葉にして確かめてみてください。
こんな身近な地図のことで人に頼っていいのかな、とためらう気持ちが残っているなら、こちらの記事が参考になるかもしれません。